†*:;;;:*†*:;;;:*†*:;;;:*†*:;;;:*†天使と小悪魔アーティスト: ケイト・ブッシュ出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン発売日: 1995/05/31メディア: CD購入: 2人 クリック: 16回この商品を含むブログ (39件) を見る

嵐が丘」の空に・・・。     松原 美由樹

 04年9月12日の夜、テレビ東京をつけていると「音の葉」という番組が始まった。
これは、各界著名人が「私のとっておきの一曲」を解説するミニ番組で、その回は漫画家の中尊寺ゆつこが登場した。

 「オヤジギャル」として大ブレイクしたまんがのキャラクターは広告などで目にしていたし、写真の露出も頻繁だったので、中尊寺ゆつこがどんな顔なのかという見当はついているつもりでいた。
しかし、その放送での中尊寺ゆつこはあまりにも美しかった。

はつらつとした若さでもなく、フェロモンを放つ色香でもなく、なんというか、何かを超越した、オーラに満ち溢れた美しさなのである。
まるで「指輪物語」のエルフ族のようであった。

同性の美貌・才能を見て、私はまず深く感心し、羨望し、すぐあとに自己を奮い立たせた。(年齢を重ねても美しい人はいるじゃないか、諦メルナ、ガンバレ、修行セヨと思考が沸騰してくるのだった)

 さて、この日取り上げられた曲は、七十年代に活躍したイギリス人歌手、ケイト・ブッシュの「嵐が丘」であった。
この曲は、日本テレビの人気番組、「恋のから騒ぎ」のテーマソングである。
私はまたまた驚いた。

エキセントリックな女性ヴォーカルに、旧き佳き時代のようなロマンチックな曲調。
私はこの曲の事を、ディズニー映画の主題歌の類だと思っていたのである。
昔、可動するとカタカタうるさい8ミリ映写機のディズニー・シリーズで、「シンデレラ」や「白雪姫」「不思議な国のアリス」をみると締めくくりには必ず、こんな感じの曲が歌われていたのだ。

いや、番組でも、「シンデレラ城」を模したミニチュアをバックにかけていたのだから、そっち系の音楽として誤解していたのでは?とも思ったが、当時の大ヒット曲だそうだから、そんな認識違いをしているとは考えにくい。
「から騒ぎ」に出演する、ひと筋縄ではいかない女性達のテーマ・ソングとして、「一見かわいいが、デイズニーのような安全な女ではない」という意味を持たせたのだろうか。

 それはともかく、少女期の中尊寺ゆつこは、ケイト・ブッシュに夢中になったそうだ。ファッションセンスを磨き少女モデルとして活躍、その後、まんがで自己表現するようになったのも、作詞・作曲活動をするケイトに影響を受けたという。
嵐が丘」の古びたレコードジャケットを手にした中尊寺ゆつこ
すべてのスタートがケイト・ブッシュだった・・・というところで、番組は終了した。

年が開けて二月一日、ヤフーのニュースを見てぶっとんだ。
1月31日に、中尊寺ゆつこが急逝したというのである。
詳しい情報はまだ入っていなかった。

私はすぐに、「アマゾン」のHPに行き、「ケイト・ブッシュ」と入力検索。
訃報から1分もしないうちに、「嵐が丘」が収録されたCD「天使と小悪魔」(原題:THE KICK INSIDE)をワンクリックで購入した。

78年に発表されたという「天使と小悪魔」は、当時19歳だったケイト・ブッシュのデビューアルバムであった。(CDは98年に復刻されたもの)

帯のコピーには「全世界が息をのんだ、類まれな才能と美貌」とある。
全編エキセントリックであり、グラム・ロック的で、「空への飛翔」「錬金術」などの表現を用いてセックスの快楽を歌っているような作品群である。
七十年代に日本で活躍した女性シンガー、谷山浩子久保田早紀の曲の中にも「これ、元ネタはケイト・ブッシュなのでは・・・」と思えるものがあった。

そして「嵐が丘」は、エミリ・ブロンテの同名の小説をモチーフに書かれた作品だという事であった。
「から騒ぎ」の歌の内容は、墓地から恋人を呼ぶキャシーの心だったのである。

長いこと 独りで夜をさまよっていたの でも あの人のいる世界に戻るのよ
あの嵐が丘 私の嵐が丘 ああ お願いよ あなたの魂をつかみたいの

ここまで読んでライナー・ノーツを閉じた。

うええん怖いよ。鬼籍となった作家の魂に導かれて聴こうとしている曲が、黄泉の国からのメッセージだなんて。怖すぎるよお。

なんて、怖さを紛らわせるため、笑いながらCDプレイヤーにセットしてみる。
ケイト・ブッシュの歌声は爽快で、嵐が丘の上空を飛び、自由を謳歌する魂を表現していて怖くはなかった。


中尊寺ゆつこさん、嵐が丘でやすらかに。