春風(亭)のカミカゼ?タイガー&ドラゴン
●脈々と続く排他の構造
落語評論本などに、「シンブン爺イ」という言葉が出てくる。
昭和40年頃か、寄席に長年通っている客達が「五代目・古今亭志ん生と八代目・桂文楽を聴いていない奴はモグリだ」と言って新参の客をよくバカにしていたらしい。
志ん生のシンと文楽のブンで、「シンブン爺イ」。バカにされた新参客がネーミングしたのだろうか。
キャパシティの限られた空間で、客同士が「席を奪い合うライバル」だからなのか、寄席ファンというものはとかく排他的である。
そして、そんな客にはなりたくないと思っていた新参客も、客席の隅っこに通ううちに同じようになってきてしまうのだ。
鳥肌が立つような高座を勤める噺家もいれば、タイムカードを押すだけのような了見の悪い噺家、描写をつけ足して噺を四十分ほども演じ、「名人であるかのように取り繕う」噺家もいるという事がわかってきてしまう。
「あいつは、ダメだ…」
と心で感じた瞬間、落語と落語家に対する「理解のステージ」があがる。そうなると、若かろうが爺イだろうが、オタクだろうが女子高生だろうが、誰もが「シンブン爺イ」の心境・口調になってくるのであった。
●落語ファンよ本性をあらわせ!
官藤官九郎が脚本を書いたドラマ「タイガー&ドラゴン」(2005年1月、四月TBS制作)は、圧倒的人気を博して一般社会に落語ブームを引き起こし、都内の寄席は連日超満員となった時期があった。
番組をきっかけとしたこのブームを、本稿では「タイガー旋風」と名づけよう。
大半の落語ファンの本質はシンブン爺イ的であるので、タイガー旋風を「受け入れたくない」というのがホンネではないかと思う。TVを見た客が寄席に押し寄せるなど、縄張りを死守する落語ファンが最も嫌悪するパターンだ。しかし、あからさまに否定すれば、「シンブン爺イの末裔」とみなされ、流行を理解しないヤツのレッテルを貼られてしまいそうだ。
が、これは落語界が盛り返したブームではなく、ドラマという虚構によって起こったものだ。
幻想の噺家を追い求めて寄席に足を踏み入れた新参者。
これこそ、真の「馬鹿にして良い餌食」なのである。シンブン爺イの末裔は
今こそ目覚め、復活するべきなのだ!ピカゴローッ!(雷の落ちる音)
(いや、私はそんな事はしませんよ…ほんとだってば!)
冗談はさておき、「美形でアウトローな噺家」という幻想を求めてお客さんが来ても、現実の寄席に虎児(長瀬智也)なみの美形噺家はいない。(本物のヤクザ噺家ならいると思うケド!?)
が、唯一、クドカンの客を満足させる存在がいる。
春風亭昇太だ。
●タイガー旋風は春風亭のカミカゼ?
ドラマで林家亭どん吉を演じていた春風亭昇太は本物の落語家であり、現在のところ実力・人気・現代性ともに申し分ない。年齢不詳の外見、古典も新作落語もこなし(創作し)、高座はわかりやすく、ギャグも合格点。お洒落、レトロ趣味、車好き、料理好き、独身、ひとりを楽しめる、格闘技好き、怪獣好き、…昇太にはおよそ、シンブン爺イの時代のような落語家のイメージは無い。
そう、タイガー旋風は昇太のためだけに吹き荒れたのだ。
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寄席にハマる可能性もある、かーもしれない。
(初出:サブカル評論第8号2005.8月発行より、一部改稿)